次男が高校を卒業できることが分かった。
本当に嬉しかった。
次男が不登校になってから、私はずっと心配していた。
「高校を卒業できるだろうか」
その大きな不安材料の1つが、ようやく消えた。
けれど、卒業が決まったからといって、次男の表情が急に明るくなるわけではなかった。
次男は浮かない顔をしたまま、日々を過ごしていた。
そして、卒業式の日はあっという間にやってきた。
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卒業式当日の朝
卒業式当日の朝、私は次男と一緒に高校へ向かった。
車で1時間以上かかる高校。
通信制高校ではあるけれど、通学型の高校。
次男は、自転車と電車とバスを乗り継いで通っていた。

でも、精神的に不安定で、辛くて通学できない日も多かった。
だから、定期券が無駄になってしまった時期も何度もあった。
これが私にとってはかなりのストレスで、次男とこの件でよく喧嘩もした。
でも、もうそんなことで悩まなくてもいいんだなぁ……。
そんなことを思いながら、私は車を運転していた。
次男の高校生活には、輝かしい記録や明るい話はほとんどなかった。
それでも、無事に高校生活を終えられることに、私はただただ感謝していた。
次男は、何も言わず、静かに車に乗っていた。
卒業式直前に思い出したこと
高校に到着すると、保護者と生徒は別行動になった。
私は卒業式の会場に入り、一番前の席に座った。
顔見知りの保護者は皆無だった。
遠方にある高校で、しかも通信制だったため、保護者同士が顔を合わせる機会なんてほとんどなかったからだ。
席に座りながら、私はふと入学式のことを思い出した。
3年前、同じ場所で行われた入学式。
本来なら、これから始まる高校生活への期待で、生徒も保護者も笑顔で入学式に臨むものなのかもしれない。
でも、あの時は違った。
この高校に入学する生徒の9割は、不登校経験者だった。
入学式では、生徒たちは皆、硬い表情で俯いていた。
笑顔はほとんどなかった。
保護者も同じだった。
皆、どこか暗い顔をしていた。
きっと皆、我が家と同じように、不登校で親子ともに辛い思いをして、ようやくこの通信制高校にたどり着いたのだろう。
あまりにも暗い入学式の様子を見て、私は
「大丈夫だろうか」
と不安に駆られたのを覚えている。
それでも、同じように辛い思いをしてきた子たちなのだから、きっと一緒に楽しく高校生活を送っていけるに違いない。
その時の私は、そう思っていた。
卒業式
卒業式が始まり、卒業生が入場してきた。
スーツ姿の次男が、私の前を通る。
少し緊張した顔で、でもしっかりとした足取りで歩いていく。
入学式の頃より、ずっと背が伸びていた。
スーツを着こなす姿は、もうすっかり成長した青年だった。
その姿を見た瞬間、
「ここまで成長してくれた……」
そう思えて、涙が溢れてきた。

式では、在校生代表の送辞、卒業生の答辞があった。
やはり、学校が辛かった生徒が、自分の思いや周囲への感謝を綴った内容で、それぞれ本当に素晴らしかった。
保護者の大半が、涙を流しながら聞いていた。
最後に、校長先生の挨拶があった。
校長先生は、不登校の生徒の生き方を何よりも考えてくれる、先駆け的な先生だった。
優しい声。
温和な表情。
いつも生徒を静かに見守ってくれていた。
私はいつも、ありがたいと思っていた。
その校長先生が、卒業生に向けて話し始めた。
けれど、話の途中で、突然言葉に詰まった。
マイクから、嗚咽が聞こえてきた。
おそらく、卒業生一人一人に心を配り、進路を考え、寄り添ってきた日々を思い出されたのだろう。
そして、皆が無事に卒業できることを、心から喜んでくださっていたのだろう。
痛いほどに、校長先生の気持ちが伝わってきた。
私は泣きながら、心の中で何度も何度も感謝した。

卒業式後の教室で
卒業式は静かに終わり、生徒たちは自分の教室へ戻った。
保護者も教室に入った。
この教室に入るのは、今日で最後。
辛い高校生活だったはずなのに、なんとなく名残惜しい気持ちになった。
次男の担任の先生は、校長先生と同じように、不登校の生徒の気持ちに寄り添ってくれる先生だった。

優しくて、穏やかな男性の先生だった。
最後のホームルームで、先生は静かに語り始めた。
あなた達は、今まで辛い思いをしてきたと思います。
でも、保護者の方々は、そんなあなた達のことを何よりも一番に考えて、寄り添ってこられたはずです。
学校へ行けないあなた達のことを考えて、送迎してくれていたと思います。
仕事に行っても、いつもあなた達のことを考えて、
「大丈夫だろうか」
「ちゃんと学校で過ごせているだろうか」
と、ずっと考えていたはずです。
仕事中も、ずっと考えてくれていたんですよ。
どんなことをしていても、何よりあなた達のことが頭から離れなかったはずです。
そんな保護者の方々に、感謝をしてください。
ここまであなた達が来られたのは、保護者の方々のおかげなんですよ。
先生は、優しい口調でそう話してくれた。
もう私は、その場で涙を堪えるのに必死だった。
先生の言葉が胸に染みて、涙があとからあとからこぼれてきた。
7年半も続いた、辛かった不登校生活。
その辛さや苦労を、先生は分かってくださっていた。
先生の言葉を聞いた瞬間、今まで抱えていた辛い気持ちが、ふわっとどこかへ飛んでいったような気がした。
「これまで本当によく頑張りましたね」
そう労っていただいたような気持ちになった。
嬉しかった。
次男が3年間在籍した通信制高校。
入学式では、不安な気持ちになった。
高校生活も、決して順風満帆ではなかった。
それでも、次男に寄り添ってくれる、本当に素晴らしい高校だった。
心の奥底から、感謝の気持ちでいっぱいになった。
最後に、高校の校舎に一礼して、私は次男と帰宅の途についたのだった。


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